2024年03月06日 — GICは、気候変動がポートフォリオに与える長期的な影響を考慮し、資本市場のリターンに対する影響を評価する気候変動のシナリオ分析を行うとともに、ポートフォリオのストレステストを実施しました。

分析に用いたのは、(i) パリ協定に基づいた移行シナリオ 、(ii) 無秩序に遅れた移行シナリオ、(iii) 移行に失敗したシナリオ、以上の3つです。そして、すべてのシナリオにおいて予測されるリターンは、気候変動に影響されないシナリオと比較して低くなることが示されました。

長期投資家は、気候関連のショックが起きることで、期待リターンが達成されない可能性や、市場ボラティリティが上昇し得ることを認識する必要があります。

この記事は、GICの経済・投資戦略部 先物取引ユニットの責任者であるレイチェル・テオ氏と、オルテック・ファイナンス(Ortec Finance)で気候ESGソリューションの共同責任者を務めるウィレマイン・フェルデガル氏によって執筆されたものです。 GICは、産業界のパートナーとの共同研究を通じて、サステナビリティに関する理解を深めることに積極的に取り組んでいます。より多くの長期投資家が投資判断にサステナビリティを組み込めるようにする上で、GICはこうした取り組みがポジティブなインパクトを生むと考えています。

気候変動は時間とともに実物資産や企業の価値に影響を及ぼすことが予想されており、GICのような長期投資家にとって重要な懸案事象です。気候変動をトップダウンおよびボトムアップのアプローチに織り込むことはレジリエントなポートフォリオを形成する上で不可欠です。

トップダウン・レベルでは、GICはオルテック・ファイナンスとその戦略的パートナーであるケンブリッジ・エコノメトリクス(Cambridge Econometrics)と提携し、異なる気候変動シナリオに対するポートフォリオのストレステストを実施することで、気候変動要因によって資本市場の長期的な予測がどのような影響を受けるかを定量化しました。これによって、リスクが高まっている分野が明らかになるとともに、ポートフォリオをより気候変動に対してレジリエントにするための、さらなる深い分析と影響に対する軽減策に注力しています。

このレポートでは、気候変動に関する以下の主なリスクについて概要を解説します:

  1. 気候変動政策のタイミング(遅延・大幅な遅延・または実施されない)
  2. 物理的リスクの範囲(パリ協定に基づいた移行によるベストケースである1.5⁰Cシナリオ、または移行に失敗した場合のワーストケースである4⁰Cシナリオに基づく)
  3. 将来の気候変動リスクを市場がどのように評価するか(時間の経過とともにスムーズに、または感覚的ショックを伴いながら破壊的に)

使用したシナリオは以下の3つです:

  1. パリ協定に基づいた移行シナリオ
  2. 無秩序に遅れた移行シナリオ
  3. 移行に失敗したシナリオ

GICの分析によると、これらの気候変動関連リスクは、主に物理的リスク(例:異常気象や気温上昇による資産や事業に対する影響)により、世界のGDPやインフレに長期的なマイナス影響を与えることが示されています。一方、移行リスクの影響(政策転換や、再生可能エネルギー、グリーン水素、電気自動車などの破壊的技術に起因するもの)は、回収した炭素税などの政策反応として、所得税の減税やクリーンエネルギーへの補助金の増加につながる財政刺激策となり、低炭素投資が総需要を押し上げるため、実質的にプラス要素となります。しかし、成長への影響は国やセクターによって異なり、またシナリオによっても異なります。

株式や不動産などのリスク資産は、債券や現金に比べて気候変動の影響を受けやすいものです。しかし、低炭素電力事業へのエクスポージャーが極めて低い株式市場(例:新興市場)は、セクターの成長余地が大きいため、移行シナリオの中でアウトパフォームする可能性が高いと言えます。

株式60%、債券40%のグローバルポートフォリオを想定した場合、気候変動があっても長期的にはリターンはプラスになる可能性があります。一方で、3つのリスクシナリオでは、すでに発生している以上の気候関連の影響がない仮定の基準値と比べてリターンは大幅に低くなります。長期投資家は、予想に反してポートフォリオのパフォーマンスが低下したことに動揺するかもしれませんが、気候関連のショックの結果、市場のボラティリティが上昇する可能性に対応できるよう備えておく必要があります。

気候変動シナリオ分析には様々な仮定が必要であり、結果には大きなばらつきが生じます。投資家にとっては、このような分析に取り組み、準備することは良い訓練となります。

GICの長期的なマンデートを考えると、我々のポートフォリオがこうしたリスクに備えることは不可欠です。気候変動シナリオ分析は、トップダウンの戦略的アセットアロケーション、ストレステスト及びリスク管理、そしてシナリオのインプットとアウトプットをアクティブな投資プロセスにボトムアップで統合することを通じて、中心的な役割を担っています。

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